今から相続について検討します。考えておくべきポイントは何ですか?
これから相続対策に取り組む地主・不動産オーナーが知っておくべき重要なポイントは何でしょうか?
相続税をたくさん払いたい人はいませんから、どのように節税できるかを知ることは大切なことに違いありません。
しかし、相続税の節税対策だけが、相続対策ではありません。
地主・不動産オーナーみなさんが相続対策について視野を広げ、先代やご自身が築き上げた財産を余すことなく次世代に引き継いでいくのに有益ないくつかのトピックをわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 相続税課税の仕組み
- 不動産が節税になる理由
- 日本における相続の現状
- 相続対策の全体像
- 地主・不動産オーナーは相続対策が必要
- 相続対策は家族の絆を深めるチャンス
課税の仕組みを知り、備える
相続税といえば、「節税」を思い浮かべ、取り組んでいる人が多いです。
これだけ課税強化されている現状では当然と言えば当然のことかもしれません。
しかし、地主・不動産オーナーが相続で考えるポイントは、節税にとどまりません。
「木を見て森を見ず」とならないように全体像を把握し、原理原則や仕組みを知ることから始めるのが鉄則です。
まずは日本の相続税課税の仕組みの基礎を知ることで相続税と正しく向き合えるようにわかりやすく説明いたします。
相続税課税の仕組み
上の図をご覧下さい。
・相続税の総額を計算するステップ
・相続人各人の納付税額を計算するステップ
と大きく2つのステップに分かれます。
「資産」から「負債」を差し引いた「純資産」を基にして「非課税財産」等、「基礎控除」を差し引いた「課税遺産総額」が、相続税の課税対象となる財産です。
つまり、財産額全体に対して税率がかけられるのではなく、
・「負債」を差し引き
・「非課税財産」等を差し引き
・「基礎控除額」を差し引き、かつ
・「法定相続分により遺産が分割された額」
に対して税率がかけられる、
このような構造になっていることを理解できていれば、過剰に相続税を恐れる必要がないことがわかります。
1 墓所、仏壇、祭具など
2 国や地方公共団体、特定の公益法人に寄附した財産
3 生命保険金のうち次の額まで
500万円 × 法定相続人の数
4 死亡退職金のうち次の額まで
500万円 × 法定相続人の数
※国税庁 パンフレット「暮らしの税情報」(令和5年度版)より
「遺産に係る基礎控除額」 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
※配偶者と子供二人の場合
⇒ 3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円
「非課税財産」、「基礎控除」の額が大きくなると、課税対象額である「課税遺産総額」が減少することになり、その分節税になるという構造になっています。
例えば、生前に墓所や仏壇などを購入しておくことや、法定相続人数を増やしておく(養子)などの対策です。
次に、課税遺産総額に対し、法定相続分により遺産が分割されたと想定し、その分割された額に対して税率が適用され、相続税の総額が算出されます。
ここまでが相続税の総額を算出するステップです。次は、各相続人個別の納付税額の計算の段階に進みます。
総額に対して、実際の相続割合で按分することになりますが、各種税額控除があります。特筆するものとしては、「配偶者控除」があげられます。
配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度。
(1) 1億6千万円
(2) 配偶者の法定相続分相当額
※但し、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されることになっており、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象になりません。
※国税庁HPより
資産額次第で、過剰な節税対策といった相続対策は不要であることがわかります。
例)課税遺産総額1億円の場合の相続税額
【前提条件】
・配偶者が8,000万円、子2人が1,000万円ずつ相続
・「配偶者の税額軽減」のみ適用があったものとする
以上から、課税遺産総額1億円に対し、子供がそれぞれ63万円ずつ、合計126万円の相続税納付となりました。
この場合は、課税遺産総額1億円に対し、割合にして1.26%です。
このように課税の仕組みの大枠を理解することが、相続税と正しく向き合う秘訣です。
- 相続で検討することは、節税だけではなく、幅広い視野で考えることが必要
- 「課税遺産総額」を法定相続分で遺産が分割されたと金額に対して、税率がかけられる(財産全体に税率がかけられるわけではない)
- 適切な相続対策をするために課税の仕組みをはじめに正しく知る
※ここでは一般的な相続税課税の仕組みを説明しているにすぎません。課税計算は個別性が強く、専門の税理士にご相談することをお勧めします。
しかしながら、遺産取得額によっては高税率となり、負担感も大きくなります。
ここでは「相続3代で財産がなくなる」と言われますが実際はどうなのか、検証してみましょう。
財産の運用は加味せず、3世代の相続税課税を経て財産がどの程度残るのかをみてみます。
課税遺産総額(正味の相続財産)が、
3億円、5億円、10億円、50億円の4パターン
でそれぞれ試算し、ひ孫の代における財産の残存率を見てみましょう。
配偶者の税額軽減も利用し、極力財産が温存されると想定した筆者による試算です。
■ 「親の正味の財産」 : 3億円の場合
■ 「親の正味の財産」 : 5億円の場合
■ 「親の正味の財産」 : 10億円の場合
■ 「親の正味の財産」 : 50億円の場合
残存率 = ひ孫の残存財産 / 親の正味相続財産
ではそれぞれでどの程度財産が残るのかを見てみましょう。
・3億円 ⇒ 58%
・5億円 ⇒ 44%
・10億円 ⇒ 31%
・50億円 ⇒ 15%
以上から「財産がなくなる」ということはありませんが、財産額が大きくなればなるほど残存率は低下するということが言えます。さらに、何もしなければ(資産運用など)、相続を経るごとに財産は必ず減るということが言えます。
さらに実際は、相続した財産を生活費等で使用するのが一般的ですし、兄弟が増えれば増えるほど分け合うことになりますからさらに少ない額(残存)になることは想像に難くありません。
税率が高ければ高いほど残る財産は少ないものとなり、正しい理解と確かな運用方針をもって、「資産を増やす」計画が必要であることは明らかです。
- 「相続3代で財産がなくなる」ことはないが、財産額が大きければ大きいほど残存率は低下する
- 何もしなければ財産は相続を経ることによって必ず減ることになるので、適切な資産運用が大切
財産評価基本通達 とは
相続税法二十ニ条
この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
e-Gov法令検索:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000073
相続により取得した財産は、「時価」によって評価されることが相続税法第二十二条に書かれています。
「時価」とはいっても、特に不動産の財産評価においては、
Aさん:「1億円だ」
Bさん:「9500万円だ」
などと見解によって評価額が異なっていては、課税の現場では公平性を欠き、複雑な実務になってしまいます。
そこで、国税庁が課税価格計算の基礎となる「通達」として定めました。
様々な財産を一定の基準で評価できるようにするための基準書と言っていいでしょう。
これが「財産評価基本通達」です。
不動産が相続税評価で有利になる仕組み
財産評価基本通達によって、不動産という資産がどのように評価されて相続税の圧縮になるのか、その仕組みの大枠を見てみます。
理解を優先するために詳細の説明は別の機会に譲ります。
【前提条件】
相続財産が
現金:1億円
土地(更地で200㎡):1億円(相続税評価額) 借地権割合60%とする
小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)の活用できるものとする
建築したアパートは満室稼働であると想定
現金1億円の評価は1億円のままです。
また、土地の評価額は、更地(自用地)評価として、1億円のままです。
よって課税遺産総額は2億円となります。
次に、現金1億円でアパート建築する計画をたてました。アパートが完成するまでは1億円の評価です。
土地の評価と合わせて、課税遺産総額は2億円のままです。
現金1億円でアパートを建て、完成しました。(①)
建物の相続税評価額は固定資産税評価額に1.0倍乗じた金額とされています。
つまり、
建物の相続税評価額 = 固定資産税評価額
とされていることから、評価額は建物が完成した瞬間に約30%下がることになります。
さらに貸家にすることで借家権割合30%を控除することができます。
つまり、建物評価は、
となります。(①の部分)
続いて②の土地の評価です。
更地(自用地)評価額から貸家建付地評価額になります。(アパートは満室想定)
課税遺産総額(相続税評価額)は、1億3100万円にすることができました。(34.5%減)
続いて③です。小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)が活用できる場合には、土地の評価額がさらに50%下がります。
以上から、土地と建物と合わせて2億円だったものが、アパート建築をすることで、財産の評価額を9000万円とすることができました。(55%減)
これが、不動産(アパート建築)を活用した相続税圧縮(節税)の仕組みです。
- 「財産評価基本通達」とは、財産を一定の基準で評価するための基準書
- 相続税の圧縮に不動産を活用することは有効である
超高齢化する日本
上のグラフは、人口ピラミッド(出:国立社会保障・人口問題研究所HP (https://www.ipss.go.jp/)2025年)です。
2025年には、いわゆる団塊の世代(800万人)の全員が75歳以上になり、後期高齢者となる一方で少子化が急速に進行し「人口の減少」と「高齢化」が未曽有のスピードで進みます。
団塊の世代とその子供世代である団塊ジュニアと呼ばれる日本の人口のかなり大きな部分がまさに相続というライフイベントの只中にあると言えるでしょう。
国家財政のひっ迫
上の円グラフは、日本の歳入・歳出です。歳入全体の3分の1以上が公債金(借金)によって賄われているのに加えて、
国の借金は対GDP比で主要先進国と比較して突出している現状です。
このような日本の財政状況でありながら信用不安が起こらない理由は、日本の民間部門の資産が背景にあるといってよいでしょう。
1家族1家族の相続・承継によって資産を余すことなく残していくことが大切であることを暗に示していると思います。
課税強化
このような中、相続税に関わらず増税傾向の政策となっていることは皆様ご存じの通りです。
平成27年1月施行の相続税法改正では、取得金額が2億円を超えて3億円以下の場合は、40%から45%に、6億円を超える場合には、50%から55%に引き上げられました。
加えて、基礎控除額(非課税枠)が引き下げられました。
非課税枠と言ってよい基礎控除額については、
平成26年までの基礎控除額は、
5,000万円 + (1,000万円 × 法定相続人数)
でしたから、基礎控除額は6割に圧縮されたことになります。
例えば法定相続人が3人の場合、8,000万円までは課税されなかったものが、平成27年1月以降は、4,800万円を超える課税遺産総額の場合は相続税がかかってくることになりました。
これに伴い、平成27年の改正前の課税対象者は全国で約5万6千人だったものが、改正後には約10万3千人となり、1.8倍も増えました。
このように、課税が強化されている現状にあることは認識しておいた方がよいです。
課税状況
では、相続税の課税状況についてみていきましょう。
理解のためにきりの良い数字を説明します。
課税遺産総額が3億円までの方でおおよそ全体の9割を占めています。
2億円超、3億円以下の区分では、平均課税価格は2億4,091万円、納付税額は3,318万円で、負担割合としては13.8%となっています。
つまり、3億円くらいまでの財産額で、全財産のうち現預金等の割合が13%以上あれば、金銭による納付が難しくなることは考えにくいということがわかります。
財産の全体像の把握が大切です。
取得財産価額にみる地主・不動産オーナーの課題
続きまして、相続財産の割合を種類別にしたものが上の円グラフになります。
分割しにくい財産として土地と家屋・構築物とを合わせて38%、分けやすい財産として現金・預貯金等・有価証券で50%となっています。
土地については本年報書では相続税評価額であり、市場価格=時価に換算するとすれば、やはり、半分以上は不動産に該当するものと思われます。
ましてや、資産全体のうち過半がが不動産資産であるという地主・不動産オーナーがほとんどであると思われます。
このことからも、どのように納税資金を準備し、どのように分けにくい資産をを分けるのか、事前準備が大切であることがうかがえます。
- 日本では、団塊の世代が後期高齢高齢者となる中、財政がひっ迫し、課税強化傾向にあること
- 地主・不動産オーナーは自らの財産全体を把握し、相続における納税や遺産分割の準備をしておくことが大切
相続対策の3つの視点
これまでも解説してきたように、最低限の相続対策としては、相続税の納税資金やどう納税額を減らすかということに加え、遺産をどう分けるかといったといったポイントがありました。ここで整理しておきましょう。
一般に相続対策とは、次の3つを指すと言われています。
① 遺産分割対策 : 遺産分割で争わないように
② 相続税の納税資金確保対策 : 納税資金に困らないように
③ 相続税の節税対策 : 相続税の負担を減らすため
遺産分割対策とは、遺産を相続人に対してどう分けるか、生前に検討しておくことです。
よく「争続」などと言われますが、争わないようにどう分けるのか、事前対策をすることがポイントです。
グラフは、裁判所司法統計による遺産価額別の遺産分割事件の割合です。(令和4年分)
5,000万円以下で3/4を占めます。5,000万円以下の場合、課税遺産総額が相続税の基礎控除以下になることが多く、相続税の納税が無いケースも多いと思われます。
相続税の対策は不要であっても、遺産分割の対策は必要になります。
ましてや現預金といったわかりやすく分けやすい遺産ではなく、分けにくい不動産となるとより生前からの遺産分割対策が必要であることは明確です。
遺産分割対策の一般的な方法としては、
- 遺言
- 生前贈与
- 生命保険加入
等があげられます。
遺産分割対策で注意すべき点は、
■ 遺留分の侵害
■ 相続税納税資金に留意すること
一定の範囲の法定相続人に認められる、最低限保証される遺産取得分のこと
この「遺留分」を侵害するような遺産分割対策にならないようにする必要があります。
特に不動産については「定価」のようなわかりやすい価格がありませんし、後継者に不動産が集中してしまうと、後継者でない相続人に対して、遺留分を侵害してしまいがちです。
よって
・生前からの時間をかけた準備
・綿密なシミュレーション
・家族間でのオープンなコミュニケーション
が求められる領域です。
「相続税課税の仕組み」のところで、相続税の計算にあたっては
・相続税の総額の計算 のステップ
・各人の納付税額の計算 のステップ
があると解説しました。
遺産分割によっては、全体の相続税に対して納税資金が足りていたとしても、各人の納付税額が不足する可能性があります。
特に、地主・不動産オーナーの場合、後継者である子が不動産を中心に相続し、後継者でない子が現預金を相続することによって、後継者である子の納税資金が不足するといった事例が考えられます。
相続税の納税は、相続開始時から10か月以内に金銭で一括して納付することが原則であるため、相続が発生した場合、不動産を中心に相続した相続人は、売りやすい不動産を売らざるを得ない事態になることが考えられます。
概して、売りにくい不動産よりも売りやすい不動産の方が価値が高いものです。
どちらにしても売るとするなら、生前に時間をかけて売りにくい不動産を売り、納税資金対策を終えておくほうがいいのではないかと思われます。
一般的にこの節税対策を最重要として取り組んでいる方が非常に多い印象ですが、優先度が高いのは①の遺産分割対策と②の相続税の納税資金対策です。
①と②を取り組むことによって、結果的に節税対策になるケースもあるため、より総合的、全体的な相続対策を実行するのであれば、①、②の対策から進めていくのが鉄則となります。
この節税対策の本質は、
■ 財産の移転
⇒ 生前贈与、資産管理会社への出資(保有) 等
■ 資産の組み換え
⇒ 生命保険への加入(非課税の枠内)、アパートの建築、収益物件の取得 等
ということになります。
「財産の移転」は、財産を被相続人から切り離すことです。
また、資産の組み換えは、現預金等、額面通りに評価されるものを別の資産形態にすることで相続税評価を下げることです。
その基準となるルールが、「財産評価基本通達」であることは前述しました。
相続対策の3つの視点 プラス 1:「承継対策」
一般的な「相続対策」とは、
この3つの柱が相続対策であると言われます。
つまり、相続に際して、
・相続税という国税を節税して支払う
・財産を家族で分け合う
この2つのことを満たす対策を実行すること、それが相続対策の中核と言えます。
特に地主・不動産オーナーにとっては、もう少し広い視点で「承継対策」もみる必要がありますが、ここでは全体像の把握のため、リストアップするにとどめます。
・ 経営の承継 : 不動産賃貸業の承継
・ 資産の継承 : 主に不動産資産を磨き上げたうえでの引継ぎ
・ 理念の承継 : ファミリーとして大切にしたい考え方・想いの継承
相続対策の1丁目1番地は「資産の把握・現状分析」
何事も「現在地がどこなのか」を把握することが第1歩です。
財産を洗い出して、相続税額の試算をします。「財産の棚卸し」です。
基本的には、顧問税理士に試算してもらうことになると思いますが、ご自身でも相続税の仕組みを理解されてからお話しされることをお勧めします。
【資産】
・土地
・建物
所有不動産ごとに、不動産登記簿謄本(登記事項証明書)、固定資産税課税明細書 等をお手元に準備しましょう。
・現預金
金融機関ごとに残高を確認
・投資信託・上場株式 等
銘柄ごとに数量(株式数・口数)と直近の単価を把握
・その他の財産
自社株式(自社の貸借対照表・損益計算書 等を準備)
借用書 等
・死亡保険金
保険証券、「契約のお知らせ」 等
【負債】
ローンの返済明細表
【基礎控除額】
3000万円 + ( 600万円×相続人数 )
資産の額から負債と基礎控除額を差し引き、
プラスであれば、相続税申告が必要
マイナスであれば、申告不要
このような仕組みになっています。
ここでは、簡便的に「現時点」の資産・負債・基礎控除額を把握し、相続税の有無を確認しました。
実際の分析では、〇年後に相続が発生したと想定し、賃貸経営全体で生み出すキャッシュフローによって
〇年後の財産状況を予測したうえで、
・家族内の遺産分割シミュレーション
・納税資金確保ができるか
等の分析を行います。
この分析の過程で、〇年後に至るまでの、賃貸経営における収益性、安全性、リスク等の課題があぶりだされてきます。
場合によっては、現状のままでは、相続税の納税ができないなどの具体的事象がわかってくるかもしれません。
場合によっては、相続税評価額が高い(相続税をたくさん払う)のにもかかわらず、収益性が低く相続対策としては不十分だったということが判明したりします。
そのような課題への取り組みが、後手になればなるほど、相続対策の難易度が高くなり、選択肢が限られてきます。
早期にわかればわかるほど取組みやすく、打ち手の選択肢が増えます。
目標・ゴールから逆算して相続対策を進める
〇年後、現状の資産運用のままでいく結果、
これで納税資金が確保され、思うような遺産分割対策が満たされると想定されるのでしたら、これ以上の対策は不要になります。(①)
まずは、「このままで大丈夫だ」とわかるだけで安心できるのではないでしょうか。
しかしながら、
例えば、「相続税の納税資金も不足しているし、さらに、妻に月額で〇〇万円、子供の家族に〇〇万円、残せるようにしておきたい」
などと、現状のままの資産運用による結果と、実現したい目標・ゴールとに大きな差、ギャップがある場合は、実現したい目標・ゴールを実現する相続対策が必要になります。(②)
場当たり的に、未活用の土地に節税を主目的としたアパート建築をするといった大きなリスクを伴った打ち手を選択すべきではありません。
現状のままの資産運用(①)で可能な結果と実現したい目標・ゴールとのギャップが大きかったり、想定される相続発生までの期間が短いと対策の難易度は高まります。(③)
以上から、相続対策で非常に重要なポイントは、
■ 財産全体の棚卸しと分析による課題の明確化
■ 残したい家族の姿のイメージ(目標・ゴール)
■ 時間(早めに始める)
となります。
- 相続対策は、節税だけでなく、どう分けるか、どう納税するかの検討が最低限必要
- 財産の現状の把握と分析が始めの第一歩
- 相続対策をより早く始めるほど、できることが多くなる
地主・不動産オーナーは、節税対策にとどまらない全体的な相続対策が必要だということを解説してきました。
資産のほとんどが金融資産である方の相続対策とは異なります。
個別性の強い不動産が資産の大半である地主・不動産オーナー特有の相続対策の3原則を見ていきましょう。
① 相続の設計書を持つ
② 賃貸経営の改善策実行
③ より有利な不動産資産への組み換え
相続の設計書を持つ
相続、というと、
「家族が争続にならないように遺言を書きましょう!」
「アパートを建築して節税しましょう!」
「生命保険は節税になります!」
「家族信託が必要です!」
といった個別の手法や対策が論じられがちです。
なぜか?
その手法・対策にお金が流れるからです。
1品や2品の料理をするなら思いつくままに手を動かせばできてしまうでしょう。
しかしお客様をもてなすような料理となると、食材の買い出しに始まり、調味料の抜け漏れはないか、味の加減、器はどうするか、といった周到な段取りが必要になるはずです。
ましてや地主・不動産オーナーは、財産を扱うわけですから、慎重の上に慎重を期すべきと思います。
財産を鳥の目で俯瞰し、各論の手法に手を付ける前に、資産の現状全体像を把握したうえで分析を行い、実現したい目標・ゴールに到達できる相続対策の具体策を実行していきます。
目指す目標・ゴールにたどりつく設計図を相続対策を始める前に手にしてから取り組めば、暗中模索の相続対策をせずに済みます。
一般的ですぐに取り組み可能なことや取り組みやすいことから始めてはなりません。
1家族1家族ごとに異なる個別の相続設計書を持つことが重要です。
賃貸経営の改善策実行
現有の不動産による賃貸経営改善で目指す目標・ゴールにたどりつけるとすれば、次章で解説するように、不動産資産の組み換え替えといったことはせず、所有の不動産資産の磨き上げを粛々と実行します。
賃貸経営の改善策実行とは、既に所有の賃貸アパートやマンションなどの収益物件の経営改善(主に収益性の改善)を指します。
具体的には、
・空室対策や家賃UPの取組み
・各種コストダウン
・リノベーション等(バリューアップ)による収益向上
・借入金利の低減・借換え等
・大規模修繕等資本投入による建物価値の維持向上
といったことによって、不動産物件価値の最大化を図っていくことです。
より有利な不動産資産への組み換え
前章のように、目指す目標・ゴールが、現状のままでいった場合とさほど大きな差が無いとすれば、現有不動産による賃貸経営の改善によって相続対策を実行していくことができます。
しかしながら、目指す目標・ゴールが、現状のままでいった場合に想定される結果と大きなギャップがあり、現有の不動産で実現できないとするなら、不動産資産をさらに収益性のよい有利になものに組み替える必要があります。
実際に、節税対策を優先してきた結果、賃貸経営の収益性が犠牲になって微々たるキャッシュフローしか残らない、というケースが非常に多いのです。
このままでは、遺産分割どころか、納税資金も確保できないような状況にある地主・不動産オーナーが多くいらっしゃいます。
そのような場合、大きく資産を組み替える必要があります。方法はありますが、時間をかける必要があります。
- 相続対策を始める前に相続設計書を持つことが大切
- 賃貸経営の改善策を実行する
- 目指す目標・ゴールによっては不動産資産の組み換えが必要
これまで相続対策というのは
・遺産分割対策
・納税資金対策
・節税対策
であるということを解説してきました。必要なことはそれで網羅されています。
しかし、何のために相続対策を取り組むのでしょうか。
財産の分け方やお金の出入りのことが相続対策の全てであるとするなら寂しい思いになるのではないでしょうか。
あえて言うまでもないことかもしれませんが、「家族の幸せ」を相続対策の基盤とすることが大切に思います。
「家族の幸せ」を基盤にするためのヒント
様々な事情はあると思います。
ご自身で抱え込まず、極力情報をオープンにして、考えていることを共有されてはいかがでしょうか。
途中、口論やけんかをすることもあるかもしれません。
しかし、「家族の幸せ」が基盤にあれば、想いが伝わるプロセスになるものと思います。
「死」から逃れることができる人はいません。
「死」は特別なことではなく、誰にでも、どんな家族にも訪れるものです。
だから、相続を家族のイベントとしてとらえて、そこに向かってともに一致団結、取り組む機会にしてはいかがでしょうか。
特に地主・不動産オーナーは生前から賃貸経営の経験を積ませておくことは、有益なことです。
また、賃貸経営で関わっている関係者を紹介しておくといったこともスムーズな承継に繋がります。
「家族会議」を定期的に開催するといいのですが、そこまで改まらなくても、あえて「相続」をテーマにして会食の場を設定し、想いを伝えておくのです。
子供世代が社会人として巣立った後、家族一同会して食事をする機会はそう多くはなかったのではないでしょうか。
そして存命中に家族でご飯を食べる機会もそう多くはないはずです。
仲良く互いを気にかけながら暮らしてほしいと「家族の幸せ」を願っている想いを伝えておくと円滑な相続に繋がると思います。
- 相続対策を単なる財産の承継・お金の話にしない
- 相続対策をみんなで取り組み、家族の絆を強くする
- オープンで率直なコミュニケーションを図る
以上、地主・不動産オーナーが相続に備えて知っておくと良いポイントを解説してきました。
思うような相続対策ができていない、という方も時間を味方にすることができれば、軌道修正ができます。
みなさまのお役にたてましたら幸いです。
介護施設建設の土地活用事業に携わり、地主さんとの出会いがきっかけで、賃貸経営を始めた。アパート・マンションを6棟購入し様々な経験を通じて不動産賃貸業の魅力を発信している。◎宅地建物取引士 ◎CPM®(公認不動産経営管理士) ◎CCIM(公認不動産投資顧問) ◎事業承継士 ◎相続対策コンサルタント ◎賃貸不動産経営管理士 ◎賃貸住宅メンテナンス主任者 ◎土地活用プランナー®