相続の基礎を知る②_遺言

遺言
地主さん
地主さん

遺言は書いた方がいいかね?

この記事でわかること

  • 地主・不動産オーナーにとって遺言はMUST!!
  • 遺言とは
  • 遺言の種類
  • 遺言についての基礎的内容
目次

遺言にはトラブルを防止する効果があります

誰しも遺産の相続をめぐって財産争いになってほしいと思う人はいません。

今まで仲の良かった家族が、兄弟が相続を機に骨肉の争いを起こすほど悲しいことはありません。

遺言書が遺されている場合は、その遺言どおりに相続するのが原則です。

全ての相続人の合意があれば、遺産分割協議により、遺言書通りではない財産の取得も可能ですが、やはり故人の遺志を尊重したいという気持ちになるのが遺言の効果と言えます。

分けにくい不動産をもつ地主・不動産オーナーにとって、相続発生後の争いを防ぐために遺言は必須と言えます。

一方で、遺言がトラブルの元になることもあり、

・遺言の内容(財産の分け方)

・法律に則り、遺言の方式、書き方

の両方を整える必要があります。

遺言を作成するメリット・デメリット

ここでは、遺言の基本を見てみましょう。

遺言の重要性と目的

遺言は、財産の分配方法や遺族へのメッセージを生前に明確に示すための非常に重要な手段です。

特に地主や不動産オーナーにとって、遺言書は相続トラブルを防ぐための必須アイテムと言えます。

遺産相続が発生した際、遺言があることで、相続人間の争いや誤解を未然に防ぐことができ、故人の意思を尊重した相続が実現できます。

遺言の目的

相続争いの防止

明確な指示を遺すことで、相続人間の争いを避けることができます。

相続手続きの簡略化

遺言があると、相続手続きがスムーズに進みます。

財産の分配意思の明確化

自分の意思通りに財産を分配できます。

特定の相続人への配慮

特定の相続人に対して特別な配慮を示すことができます。

遺言作成のタイミング

遺言は早めに作成しておくことが推奨されます。具体的なタイミングは以下のような場合が考えられます。

1.財産が確定したとき:不動産購入や資産運用を始めたタイミング

2.家族構成が変わったとき:結婚、出産、離婚、再婚など

3.重大な病気や加齢:認知症になる前や大病を患ったとき

4.ライフイベント:子供の進学、独立、親の介護が始まったとき

思い立ったが吉日、早期に作成することで、予期せぬ事態に備えることができ、心の平安を得、残りの命を前向きに歩むことができるように思います。

また、定期的に見直しや更新することも重要です。

遺言書に記載すべき内容のチェックリスト

遺言書を作成する際には、以下の内容をもれなく記載することが大切です。

※遺言書については、下記「遺言とは」欄に、様式例を記載しています。

1.タイトル:遺言書であることを明示

2.作成年月日:遺言書の作成日を記載

3.遺言者の氏名:遺言を作成した人のフルネーム

4.財産の詳細:具体的な財産の内容とその分配方法

 ・ 不動産 : 土地や建物の所在地、登記簿情報

 ・ 預貯金 : 金融機関名、支店名、口座番号

 ・ その他の試算 : 株式、証券、動産など

5.相続人の詳細 : 相続人の名前、住所、続柄

6.遺言執行者の指定 : 遺言執行者を指名し、その役割を明記

7.特記事項 : 遺産分配の理由や特別な希望がある場合、その詳細

8.署名・押印 : 遺言者の署名と押印

9.証人の署名(公正証書遺言の場合) : 証人の署名と押印

まとめ
  • 遺言作成は、地主・不動産オーナーにとって非常に重要なプロセスであり作成は必須
  • 早めのタイミングで遺言を作成し、必要な情報を漏れなく記載し、相続トラブルを未然に防ぐことができる
  • 自分の意思を確実に伝え、反映できるのが遺言

遺言とは

遺書とは

遺言は、生前に自分の死後に財産を「誰に」「どのように」「どれだけ」残したいか、自分の意思や想いを確実に伝えるための意思表示です。

法律上の効力を生じさせようとする意思表示ですから、法律に則った形式で書く必要があります。

(遺言の方式)

遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

民法第960条

遺書と遺言書の違い

遺書は、自分の気持ちを伝える私的な文書であり、思いを記します。

内容・形式は自由です。

例えば、「兄弟は仲良く、母さんを大切にしなさい」といった内容です。

法的な効力はありません。

それに対し、遺言書は財産を贈与する法律上の効果があります。

「財産の2分の1を妻に、4分の1を長男に」といった内容です。

遺言をつくることができる人

(遺言能力)

十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

民法第961条

(遺言能力)

遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

民法第963条

例えば、認知症になってしまったら、遺言書を作成することはできません。

言葉が不自由な人、耳が聞こえない人も遺言書を作成することができます。

遺言の原則

【遺言の方式】

(遺言の方式)

遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

民法第960条

自筆証書遺言の例

出)法務省 自筆証書遺言保管制度 より

【共同遺言の禁止】

(共同遺言の禁止)

遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。

民法第975条

夫婦であっても遺言は、各自作成する必要があります。

【遺言の撤回】

(遺言の撤回)

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

民法第1022条

遺言書の種類

遺言の種類

公正証書遺言・自筆証書遺言のメリット・デメリット

主要な遺言である公正証書遺言と自筆証書遺言のメリット・デメリットです。

遺言書の作成方法

ここでも主要な遺言である公正証書遺言と自筆証書遺言の作成方法についてみてみましょう。

公正証書遺言の作成手順

公正証書遺言は、公証役場で公証人の立会いのもとで作成される遺言書で、法的確実性が高い方法と言えます。

以下にその作成手順を説明します。

公正証書遺言は、士業の先生や銀行等を介することなく直接遺言者やその親族等が公証役場に電話やメールをしたり、予約を取って公証役場を訪れたりして、公証人に直接、遺言の相談や遺言書作成の依頼をしても一向に差し支えありません。

事前準備

・財産目録作成 : 所有する財産の詳細をリストアップ

・相続人の確認 : 法定相続人や遺言で遺産を贈与する人を確認

・遺言内容の決定 : 財産の分配方法や遺言執行者を決定

公証役場の予約

公証人役場に電話などで予約をし、遺言作成の相談希望日時を調整します。

必要書類の準備

・本人確認書類 : 運転免許証やパスポートなど

・財産の証明書類 : 不動産登記簿謄本、預貯金通帳など

・相続人の情報 : 戸籍謄本など

公証人との事前相談

・公証役場で、公証人が遺言の内容を確認し、文書化します

・公証人が遺言者と証人の面前で遺言書を読み上げ、内容の確認を行います

・遺言者と証人が署名し、公証人が認証印を押して完成です

公正証書遺言の注意点

・費用がかかる

作成には公証人手数料が発生します。財産の額によって費用は異なります。

(※公証業務に関する相談は、無料です)

・証人が必要

証人2人が必要で、利害関係のない第三者でなければなりません。

・公証役場に出向く必要がある

身体が不自由な場合は公証人に出張してもらう事も可能。別途費用はかかります。

・秘密性が多少犠牲になる

公証人と証人が遺言内容を知ることになります

自筆証書遺言の作成手順

自筆証書遺言は、遺言者が自分で全てを書き記す方法で、基本的に費用がかからず、手軽に作成できる遺言書です。

事前準備

・財産目録作成 : 所有する財産の詳細をリストアップ

・相続人の確認 : 法定相続人や遺言で遺産を贈与する人を確認

・遺言内容の決定 : 財産の分配方法や遺言執行者を決定

遺言書の作成

・全文を自書

遺言書は全て遺言者自身が手書きで作成する必要があります。

・作成年月日の記載

遺言書が作成された日付を記載します。

・財産目録の添付

財産目録を添付する場合は、目録はパソコンなどで作成してもよいですが、各ページに署名と押印が必要です。

保管

・自宅保管

自分で保管する場合は、信頼できる場所に保管し、遺言書の存在を信頼できる人に伝えておきます。

・法務局での保管

2020年より、法務局で自筆証書遺言を保管することができる制度が始まりました。

これにより、紛失や改ざんのリスクが軽減されます。

1件につき、3,900円の手数料がかかります。

自筆証書遺言の注意点

・方式不備による無効のリスク

方式に不備があると無効になる可能性があります。

・改ざんや紛失のリスク

自宅保管の場合、改ざんや紛失のリスクがあります。

・検認手続きが必要

遺言者の死後に家庭裁判所での検認手続きが必要です。

これにより、相続手続きが遅れる可能性があります。

・内容が不明瞭になりやすい

プロのチェックがないと、内容が曖昧になり、争いの原因となることがあります。

まとめ
  • 地主・不動産オーナーとしては、財産規模や種類、家族構成、リスクの許容度などを考慮して最適な方法を選ぶ
  • 公正証書遺言、自筆証書遺言のどちらを選ぶにせよ、充分な準備と法的アドバイスを受けることが、後のトラブルを避ける鍵となる

遺言の法的効力

遺言の法的要件

遺言が法的に有効となるためには、以下の要件を満たしている必要があります。

遺言能力

遺言者が遺言を作成する時点で意思能力があり、15歳以上であることが必要です(民法第961条)。

遺言の方式

遺言は、民法に定められた方式に従って作成されなければなりません。

主要な方式には、公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言などがあります(民法第960条)。

遺言内容の明確性

遺言書に記載される内容は具体的で明確でなければなりません。

特に財産の分配方法については、曖昧な表現を避け、誰に何をどのように分配するかを明確に記載する必要があります。

無効になるケース

遺言が無効とされる場合には、以下のようなケースがあります。

方式の不備

・自筆証書遺言において全文が自書されていない場合や、署名・押印がない場合

・公正証書遺言において、公証人や証人が適切に立会わなかった場合

遺言能力の欠如

遺言者が認知症などで意思能力がなかった場合、遺言は無効とされる可能性があります。

強迫・詐欺

遺言が脅迫や詐欺によって作成された場合。

内容の違法性

遺言の内容が法令違反する場合。

共同遺言

夫婦など二人以上の者が同一の証書で遺言を作成した場合(民法第975条)。

遺言執行者の役割

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人物であり、重要な役割を担います。

遺言の内容実現

遺言に記載された財産の分配やその他の指示を実行します。

相続手続き

財産の名義変更や登記、預貯金の解約・払い戻しなどの手続きを行います。

債務の支払い

遺言者の債務を清算し、残余財産を相続人に分配します。

遺留分の確保

遺留分を侵害する遺言内容がある場合、相続人と協議し、調整を行います。

遺言執行者の選任方法

遺言執行者は遺言者が遺言書の中で指定することが一般的ですが、指定がない場合や指定された人物が辞退する場合には、家庭裁判所が選任します。

遺言書での指定

遺言者は信頼できる人物を遺言執行者として指定することができます。

専門家(弁護士や司法書士など)を指定することも可能です。

家庭裁判所による選任

遺言執行者の指定がない場合、または指定された遺言執行者が辞退した場合、相続人は家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることができます。

遺言の撤回

遺言者は生前であればいつでも遺言の全部または一部を撤回することができます(民法第1022条)。

新しい遺言の作成

新しい遺言を作成し、「以前の遺言を撤回する」と明記することで、以前の遺言は無効となります。

自筆証書遺言の破棄

自筆証書遺言を破棄することも、遺言の撤回に該当します。

公正証書遺言の撤回

公正証書遺言を撤回する場合は、新たな公正証書遺言を作成することが一般的です。

遺言の変更

遺言の一部を変更する場合も、遺言者は生前に自由に変更することができます。

変更したい部分を含めた新しい遺言を作成

新しい遺言を作成し、変更したい内容を含めて明記します。

この場合、以前の遺言全体を撤回するのではなく、変更箇所だけを新たに指定します。

遺言の補遺

遺言に補遺を追加する方法もありますが、この場合も公正証書であれば公証人に手続きしてもらう必要があります。

まとめ
  • 遺言の法的効力を確保するために、法律で定められた方式・要件を満たすことが重要
  • 遺言執行者の選任とその役割について理解し、適切な人物を選ぶことが、遺言の実現を円滑に進める鍵
  • 遺言の撤回や変更を含め、遺言作成後も適宜見直しを行うことで、遺志を正確に反映できる

遺言書の保管方法

公正証書遺言の保管方法

公正証書遺言は、公証人役場で作成されるため、その保管方法も安心で便利です。

公証人役場での保管

公正証書遺言は、公証人役場で保管されます。

公証人が遺言の原本を保管(原則20年間)し、遺言者には正本と謄本が渡されます。

複写の保管

正本と謄本は遺言者が自宅などで保管します。

信頼できる人(遺言執行者など)に一部を預けることも検討すると良いでしょう。

公正証書遺言の利便性

公正証書遺言の保管方法には多くの利便性があります。

安全性

公証人役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクが非常に低くなります。

証明力

公証人が関与しているため、遺言書の真正性が高く、法的な証明力があります。

迅速な手続き

相続手続きが迅速に進められ、遺言の内容に基づいた財産分配がスムーズに行われます。

自筆証書遺言の保管場所

自筆証書遺言は遺言者自身が保管するため、保管場所の選定が重要です。

自宅保管

信頼できる場所に保管します。

例えば、鍵付きの引き出しや金庫などです。

信頼できる第三者への預託

信頼できる家族や友人に預けることも考えられます。

ただし、トラブル防止のため、遺言書の存在と保管場所を相続人に通知しておくと良いでしょう。

法務局での保管

2020年から開始された自筆証書遺言の法務局保管制度を利用することができます。

法務局で保管することで、紛失や改ざんのリスクが低減されます。

自筆証書遺言のリスク

自筆証書遺言にはいくつかのリスクがあります。

紛失

遺言書を紛失するリスクがあります。

特に、自宅保管の場合、火災や災害などで失われる可能性もあります。

改ざん

自宅で保管する場合、第三者による改ざんのリスクがあります。

信頼できる人に預ける場合も、同様のリスクがあります。

発見されない

遺言書が存在していることを知られなければ、遺言内容が実現されない可能性があります。

遺言書の紛失や破損を防ぐための対策

公正証書遺言の場合

公正証書遺言は公証人役場で保管されるため、紛失や破損のリスクはほとんどありません。

ただし、正本や謄本を安全に保管するための対策を講じておくことが重要です。

1.複数の保管場所

自宅と信頼できる第三者(遺言執行者など)の両方に保管しておくことで、万が一の紛失に備えます。

2.安全な保管場所

鍵付きの引き出しや金庫など、安全性の高い場所に保管します。

自筆証書遺言の場合

自筆証書遺言の紛失や破損を防ぐためには、いくつかの対策があります。

1.法務局での保管

法務局で保管することで、紛失や改ざんのリスクを大幅に低減できます。

2.複数の写しを作成

自筆証書遺言の写しを作成し、信頼できる第三者や弁護士などに預けることで、紛失時のバックアップとします。

3.信頼できる保管場所

自宅では鍵付きの引き出しや金庫に保管し、保管場所を相続人に通知しておくことで、遺言書の存在を確実に伝えます。

4.防火・防水対策

防火・防水の金庫を使用するなど、自然災害に対する対策を講じることも有効です。

まとめ
  • 公正証書遺言は安全性と利便性、証明力が高いといえる
  • 自筆証書遺言は法務局での保管制度を利用することでリスクを軽減できる
  • いずれの場合も、遺言書の存在と保管場所を信頼できる人に伝え、適切に管理することが、遺志を確実に実現するための鍵

相続人と遺留分

相続人の範囲

相続人は、被相続人の財産を受け継ぐ権利を持つ人々です。

民法では、相続人の範囲とその順位が明確に規定されています。

配偶者

配偶者は常に相続人となります。

被相続人が亡くなった時点で婚姻関係がある配偶者が該当します。

子供は第1順位の相続人です。

実子、養子、認知された非嫡出子も含まれます。

直系尊属

子供がいない場合、被相続人の親や祖父母が第2順位の相続人となります。

兄弟姉妹

子供も直系尊属もいない場合、被相続人の兄弟姉妹が第3順位の相続人となります。

兄弟姉妹が既に亡くなっている場合、その子(甥や姪)も相続人となります。

相続の順位

相続の順位は以下のとおりです。

第一順位 : 子供

子供が相続人になる場合、配偶者と共同で相続します。

相続割合は配偶者が1/2、子供が残り1/2を等分します。

第二順位 : 直系尊属

子供がいない場合、配偶者と直系尊属が共同で相続します。

相続割合は配偶者が2/3、直系尊属が1/3です。

兄弟姉妹

子供も直系尊属もいない場合、配偶者と兄弟姉妹が共同で相続します。

相続割合は配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4です。

遺留分とは

遺留分とは、法定相続人が最低限確保できる相続財産の割合を指します。

被相続人が遺言書で財産を自由に分配することができても、一定の相続人にはその最低限の取り分が保障されています。

遺留分権利者

配偶者、子供、直系尊属が遺留分権利者に該当します。兄弟姉妹には遺留分はありません。

遺留分の割合

・配偶者、子供の場合:法定相続分の1/2

・直系尊属のみの場合:法定相続分の1/3

遺留分侵害額請求権

遺留分が侵害された場合、遺留分権利者は遺留分侵害額請求権を行使できます。

請求の対象

遺言や生前贈与により、自分の遺留分が侵害された場合、遺留分を取り戻すために請求を行います。

請求の期間

遺留分侵害額請求権は、相続開始および遺留分の侵害を知った時から1年以内に行使しなければなりません。

相続開始から10年が経過すると請求権は消滅します。

遺留分対策の方法

遺留分対策を講じることで、相続トラブルを未然に防ぐことができます。

生命保険の活用

生命保険の受取人を特定の相続人に指定することで、遺留分に影響を与えずに特定の人に財産を渡すことができます。

相続時精算課税制度の利用

生前贈与を計画的に行うことで、遺留分の問題を解決する手段となります。

家族信託の方法

家族信託を活用し、信頼できる人に財産の管理・運用を託すことで、遺留分対策を行います。

遺言書の見直し

遺言書の内容を定期的に見直し、遺留分権利者の権利を侵害しないよう配慮します。

実例

事例1)生命保険を活用した対策

被相続人が特定の子供に多くの財産を渡したい場合、生命保険の受取人をその子供に指定し、保険金が遺留分に影響しないようにします。(生命保険金は、受取人固有の財産となる)

事例2)家族信託を活用した対策

被相続人が自分の財産を信頼できる長男に管理させ、次男には現金を渡すことで遺留分を確保しつつ、遺志を反映させた相続を実現しました。

事例3)相続時精算課税制度を活用した対策

被相続人が生前に直系尊属へ一定の財産を贈与し、遺留分侵害が起こらないように調整しました。

まとめ
  • 相続トラブルを回避するため、相続人の範囲と順位、遺留分の基本の理解が重要
  • 遺留分侵害が発生する可能性を検討し、計画的な遺言書作成や遺留分対策が重要

不動産の遺言

不動産を遺言に含める際にいくつか注意することがあります。

不動産の特定

遺言書に不動産を含める際は、その不動産を明確に特定することが重要です。

不動産の所在地

不動産の住所を正確に記載します。

土地の場合は地番、建物の場合は家屋番号を記載します。

登記簿謄本を参照しましょう。

不動産の種類

土地、建物、農地など不動産の種類を明記します。

登記情報

不動産登記簿謄本の情報を記載し、所有者が被相続人であることを確認します。

共有持分の考慮

不動産が共有名義の場合、遺言書での分割方法に注意が必要です。

共有持分の明記

共有持分を明確にし、遺言書に記載します。

例えば、「土地の1/2を長男に、残りの1/2を次男に」といった具体的な記載が必要です。

共有者間の合意

共有者間での合意を得ておくことが望ましいです。

相続後の共有持分の扱いについても遺言書に記載しておくとトラブルを防ぐことができます。

評価額の記載

不動産の評価額を遺言書に記載し、相続人間の公平性を保つようにします。

評価方法の明記

公平な評価方法を採用し、不動産の評価額を遺言書に記載します。

評価基準としては、路線価や固定資産税評価額などがありますが、「時価評価」(いくらで売れるのか)によって記載するのが望ましいです。

評価時点の明記

評価時点を明確にし、その時点での評価額を記載します。

評価時点が異なると、不動産の価値が変動する可能性があります。

不動産の分割方法

不動産の分割方法にはいくつかの選択肢があります。

それぞれの方法について理解し、適切な選択を行います。

現物分割

不動産そのものを分割して相続する方法です。

例えば、土地を複数の相続人で分割する場合、境界を設定し、それぞれの所有部分を明確にします。

換価分割

不動産を売却し、その売却代金を相続人で分割する方法です。

この方法は、不動産の評価が容易であり、相続人間の公平を保ちやすいです。

代償分割

不動産を特定の相続人が取得し、他の相続人にはその代償として金銭を支払う方法です。

例えば、長男が不動産を相続し、次男にその代償として金銭を支払います。

相続税対策

不動産を相続する際には、相続税対策も重要です。以下の方法で相続税負担を軽減することができます。

小規模宅地等の特例

被相続人が住んでいた自宅など一定の要件を満たす不動産については、相続税評価額を最大80%減額することができます。

生前贈与

被相続人が生前に不動産を相続人に贈与することで、相続時の課税対象額を減少させることができます。

贈与税の非課税枠を活用することがポイントです。

評価減対策

不動産の評価方法を工夫し、相続税評価額を減少させることができます。

例えば、賃貸不動産の評価額は自用地よりも低くなります。

賃貸不動産の相続

賃貸不動産を相続する際のポイントを押さえておきましょう。

賃貸契約の承継

賃貸不動産を相続する場合、賃貸契約も承継されます。

相続人は賃貸人としての義務と権利を引き継ぐことになります。

賃料収入の申告

相続後の賃料収入は相続人の所得となります。

適切に確定申告を行い、所得税を支払う必要があります。

賃貸不動産の管理方法

相続した賃貸不動産の管理方法についても考慮する必要があります。

管理会社の活用

不動産管理会社を利用することで、賃貸管理の手間を軽減できます。

入居者募集、賃料回収、修繕などの業務をプロに任せることができます。

修繕計画の立案

賃貸不動産の価値を維持・向上させるために、定期的な修繕計画を立てることが重要です。

修繕費用を見積もり、計画的に資金を確保しておくことが求められます。

トラブル対応

賃貸不動産では、入居者とのトラブルが発生する可能性があります。

契約内容の確認や法律の専門家と連携し、迅速かつ適切な対応を心がけましょう。

まとめ
  • 不動産を遺言に含める際の注意点や分割方法、相続税対策、賃貸不動産の相続と管理方法等の理解が大切
  • 適切かつ必要な情報の収集を専門家のアドバイスを受けながら準備を進めるとスムーズ

遺言書の執行

遺言書の確認と検認

遺言書の執行は、まず遺言書の内容を確認し、適切な手続きを踏むことから始まります。

遺言書の有無の確認

被相続人が遺言書を残しているか確認します。

遺言書が複数存在する場合、それぞれの内容を確認し、最新の遺言書を優先します。

遺言書の検認

自筆証書遺言の場合、家庭裁判所での検認手続きを行います。

検認は遺言書の偽造・変造を防ぐための手続きであり、遺言書の有効性を確認するものではありません。

遺言執行者の選任と通知

遺言執行者が指定されている場合と、指定されていない場合の対応を行います。

遺言執行者の選任

遺言書に遺言執行者が指定されている場合、その人が遺言執行者となります。

指定されていない場合、相続人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てます。

遺言執行者の通知

遺言執行者に対して、遺言書の内容と遺言執行の必要性を通知します。

遺言内容の実行

遺言執行者が遺言書の内容を実行する具体的な手続きに入ります。

財産の調査と目録の作成

被相続人の財産を調査し、財産目録を作成します。

これには不動産、預貯金、株式などが含まれます。

相続人への通知

相続人全員に対して遺言内容と財産目録を通知します。

財産の分配

遺言書に従って財産を分配します。

これには、不動産の名義変更、預貯金の解約と分配、株式の移転手続きなどが含まれます。

遺言執行者の権限

遺言執行者は、遺言書の内容を実現するために必要な権限を持っています。

財産の管理

遺言執行者は、相続財産の管理権を持ちます。

これには、財産の保全や管理、必要な処分などが含まれます。

法律行為の代理

遺言執行者は、相続人に代わって必要な法律行為を行う権限を持ちます。

例えば、不動産の名義変更や預貯金の解約手続きなどです。

遺言執行者の義務

遺言執行者は、以下の義務を負います。

忠実義務

遺言執行者は、遺言書の内容を忠実に実行する義務があります。

これには、遺言者の意思を尊重し、公平かつ誠実に執行することが含まれます。

報告義務

遺言執行者は、相続人に対して執行状況を適宜報告する義務があります。

これにより、相続人は執行の進捗状況を把握できます。

賠償義務

遺言執行者がその義務を怠り、相続人に損害を与えた場合、遺言執行者はその損害を賠償する責任を負います。

遺言書の執行におけるトラブル事例と解決策

遺言書の執行において、以下のようなトラブルが発生することがあります。

相続人間の紛争

相続人間で遺言書の内容や財産の分配方法について意見が対立し、紛争が発生することがあります。

遺言書の無効主張

相続人が遺言書の無効を主張し、遺言執行が停止することがあります。

これは、遺言書の形式不備や遺言能力の欠如が原因となる場合があります。

遺言執行者の不正

遺言執行者が不正行為を行い、相続財産が適切に分配されない場合があります。

解決策

遺言書の執行におけるトラブルを解決するための方法を紹介します。

調停や仲裁の利用

相続人間の紛争が発生した場合、家庭裁判所の調停や仲裁を利用することで、円満な解決を図ることができます。

専門家の相談

遺言書の無効主張や遺言執行者の不正が疑われる場合、弁護士や司法書士などの専門家に相談し、適切な法的対応を取ります。

透明性の確保

遺言執行者は、相続人に対して透明性を確保し、執行の進捗状況や財産の管理状況を適時に報告することで、信頼を得ることが重要です。

まとめ
  • 遺言書の執行は、相続財産の円滑な分配を実現するために不可欠なプロセス
  • 相続人間のトラブル防止のために、遺言執行者の権限と義務を理解する
  • 遺言執行におけるトラブル事例を把握し、適切な解決策を講じることが大切

ケーススタディ:遺言によるトラブル防止例

事例1)兄弟間の相続争いを防止した例

背景

Tさんは、2人の息子(AさんとBさん)に不動産と預貯金を遺したいと考えていました。

しかし、相続時に兄弟間でトラブルが起こることを懸念していました。

対応

Tさんは、生前に公正証書遺言を作成し、不動産はAさんに、預貯金はBさんに相続させる旨を明記しました。

また、相続に関する詳細な説明を2人に行い、納得してもらいました。

結果

Tさんの遺言通りに相続が行われ、兄弟間でのトラブルは発生しませんでした。

田中さんが生前にしっかりと準備し、オープンに透明性を保ったことが功を奏しました。

事例2)複雑な相続関係を整理した例

背景

Yさんは、再婚後に生まれた子供が2人、前妻との子供が1人いました。

相続時にそれぞれの子供間で争いが起こることを避けたかったため、遺言を残すことにしました。

対応

Yさんは、弁護士と相談し、公正証書遺言を作成しました。

遺言書には、再婚後の子供には実家と土地を、前妻との子供にはマンションを相続させることを明記しました。

結果

Yさんの遺言により、相続人全員が納得する形で相続が進みました。

異なる家庭間での争いを避けるための遺言が効果を発揮しました。

事例3)賃貸物件の相続:賃貸アパートの管理を承継

背景

Kさんは、生前に賃貸アパート経営をしていました。

相続人は息子1人でしたが、息子が賃貸経営に関心がないことを懸念していました。

対応

Kさんは、遺言書に賃貸アパートの相続とともに、信頼できる不動産管理会社を選定しました。

また、息子には賃貸経営の基礎を学ぶよう促し、生前に研修やセミナーを受けさせました。

結果

Kさんの息子は、不動産管理会社と連携しながら賃貸経営を継続しました。

Kさんの準備により、スムーズに賃貸物件の相続・承継が進み、収益を安定的継続的に得ることができました。

事例4)賃貸物件の相続:賃貸ビルの相続と税務対策

背景

Sさんは、大都市に賃貸ビルを所有していました。

相続税の負担を軽減するため、適切な対策が必要でした。

対応

Sさんは、生前に賃貸ビルの一部を生前贈与し、賃貸収入を分散させることで相続税の軽減を図りました。

また、遺言書に賃貸ビルの管理方法や相続後の修繕計画についても明記しました。

結果

Sさんの相続税負担は軽減され、相続人は賃貸ビルの収益を継続的に享受することができました。

税務対策と遺言書の効果により、賃貸物件の相続が成功しました。

事例5)遺言書が無効となったケース:法的要件を満たさなかった例

背景

Rさんは、自筆証書遺言を作成しましたが、形式に不備がありました。

具体的には、日付の記載がなかったためです。

原因

自筆証書遺言は、法律に従った形式を守る必要がありますが、斎藤さんの遺言書は日付の記載がなかったため、無効とされました。

結果

遺言書が無効となり、法定相続分に基づく相続が行われました。

この結果、相続人間で争いが発生し、相続手続きが長引くことになりました。

事例6)遺言書が無効となったケース:遺言能力が認められなかった例

背景

Nさんは、認知症が進行した状態で遺言書を作成しました。

相続人の一部が、遺言書の有効性を疑問視しました。

原因

遺言書作成時に遺言能力が認められないと、遺言書は無効となります。

Nさんの遺言書は、遺言能力が不十分であると家庭裁判所で判断されました。

結果

遺言書が無効とされ、相続は法定相続分に基づいて行われました。

これにより、相続人間での紛争が発生しました。

事例7)遺言書の改ざんが疑われた例

背景

Uさんの遺言書が発見されましたが、一部の相続人が内容の改ざんを主張しました。

原因

遺言書が改ざんされた疑いがある場合、遺言書の有効性が問われます。

筆跡鑑定や証拠の収集が行われましたが、最終的には改ざんが認められました。

結果

遺言書は無効とされ、相続手続きが法定相続分に基づいて進められました。

相続人間での信頼関係が損なわれ、争いが長期化しました。

まとめ
  • 遺言書による成功事例だけでなくトラブル事例とその原因を知って遺言書作成の重要性を理解する
  • 適切な遺言書を作成し、法的要件を満たすことで円滑な相続を実現しましょう

Q&Aコーナー

Q1: 遺言書は必ず作成する必要がありますか?

A1

遺言書は必ず作成する必要はありませんが、遺産を円滑に相続させるために有効です。

特に、不動産や賃貸物件などの分割が難しい資産を持つ場合、遺言書を作成することで相続トラブルを防ぐことができます。

Q2: 遺言書の作成に最適なタイミングはいつですか?

A2

遺言書の作成に最適なタイミングは、重要なライフイベント(結婚、離婚、子供の誕生、不動産の購入など)の後や、健康状態が悪化した時です。

しかし、心身共に元気なうちに早めに作成しておくことが安心です。

Q3: 公正証書遺言と自筆証書遺言、どちらが良いですか?

A3

公正証書遺言は、公証人が作成するため、法的に確実で無効になるリスクが低いです。

費用はかかりますが、安全性が高いです。一方、自筆証書遺言は自分で作成でき、費用がかからない反面、形式不備や紛失のリスクがあります。

状況に応じて選択しましょう。おすすめは公正証書遺言です。

Q4: 遺言書を変更したい場合はどうすればいいですか?

A4

遺言書を変更したい場合は、既存の遺言書を撤回し、新たな遺言書を作成する必要があります。

公正証書遺言の場合は再度公証人に依頼し、自筆証書遺言の場合は前の遺言書を破棄し、新しいものを作成します。

Q5: 遺言書が無効になるケースはどんな場合ですか?

A5

遺言書が無効になるケースとしては、法律に則った形式で書かれていない場合、遺言能力が認められない場合、内容に不備がある場合などが挙げられます。

遺言書は法律に従って作成することが重要です。

遺言書作成の相談先とサポート機関

相談先

弁護士

遺言書の作成や相続に関する相談に対応してくれます。

司法書士

不動産登記や相続手続きに詳しい専門家です。遺言書作成の支援や登記手続きの代行を行います。

行政書士

遺言書の作成や相続手続きのサポートを行います。費用が比較的安価で、手軽に相談できます。

公証役場

公正証書遺言の作成を希望する場合は、公証役場で公証人に依頼します。公証人が遺言書を作成し、保管もしてくれます。

サポート機関

市区町村の相談窓口

各市区町村には、無料の法律相談や相続相談窓口があります。予約が必要な場合が多いので、事前に確認しましょう。

地域の法テラス

法テラスは、法的トラブルに関する相談を無料で提供する機関です。遺言書作成の相談も受け付けています。

専門家への依頼方法

1.初回相談

弁護士、司法書士、行政書士などの専門家に初回相談を申し込みます。初回相談無料の場合が多いです。

2.見積もり依頼

相談内容をもとに、具体的なサービスとその費用の見積もりを依頼します。

3.契約

サービス内容と費用に納得した後、正式に契約を結びます。契約書を交わし、サービスの詳細を確認します。

4.作業依頼

遺言書の作成や相続手続きの具体的な作業を依頼し、専門家の指示に従って必要な書類を準備します。

費用

弁護士費用

初回相談は無料~1万円程度。遺言書作成は10万円~30万円程度が一般的です。相続額や内容の複雑さによって変動します。

あくまでも目安です。

司法書士費用

初回相談は無料~5000円程度。遺言書作成は5万円~20万円程度。登記手続きの代行費用が加算されることがあります。

行政書士費用

初回相談は無料~3000円程度。遺言書作成は3万円~15万円程度が目安です。相談先や地域によって料金が異なります。

公正証書遺言作成費用

公証人への手数料は5万円~10万円程度。遺言書の内容や財産額によって異なります。遺言書の保管料が追加されることもあります。

全体まとめ
  • 財産としての評価が難しく分けにくい不動産を所有している地主・不動産オーナーにとって遺言を遺すことは必須と言える
  • 遺言の内容を事前に検討することと、法律に従って遺言書の方式を整えることと両方とも大切
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この記事を書いた人

介護施設建設の土地活用事業に携わり、地主さんとの出会いがきっかけで、賃貸経営を始めた。アパート・マンションを6棟購入し様々な経験を通じて不動産賃貸業の魅力を発信している。◎宅地建物取引士 ◎CPM®(公認不動産経営管理士) ◎CCIM(公認不動産投資顧問) ◎事業承継士 ◎相続対策コンサルタント ◎賃貸不動産経営管理士 ◎賃貸住宅メンテナンス主任者 ◎土地活用プランナー®

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